2021年開催シンポジウム

外国語教育研究の再現可能性2021

  • 本プロジェクト主催のシンポジウム「外国語教育研究の再現可能性2021」が2021年9月12日(日)にオンライン開催されました。

  • 参加申し込み数は200を超え,会場には200名弱の方にお越しいただきました。ご参加いただいた皆様,後援団体・個人の皆様,まことにありがとうございました。

テーマ:「わたし(たち)は再現可能性をいかに考えるか」

  • そもそも,わたしたち,外国語の教師,研究者,そしてすべての関係者は再現可能性をどのように考えるか,またはどのように考える<べき>なのか,議論の結果どころか,議論のスタート地点すら見えてきません

  • そこで,これまでに英語教育の分野の再現可能性に関して先駆的な取り組みで知られる柳瀬陽介先生(京都大学),そして奥住桂先生(帝京大学)をお招きし,本プロジェクトの研究成果でもある展望論文「外国語教育研究の再現可能性:素朴な認識の拒絶と追求姿勢の擁護」(草薙・鬼田・亘理,2021)の主張を起点としながら,「わたし(たち)は再現可能性をいかに考えるか」について議論を始めます

開催情報

全体プログラム

  • プロジェクト説明・企画説明(鬼田崇作 同志社大学):13:00-13:15

  • シンポジウム「わたし(たち)は再現可能性をいかに考えるか」

  • 自由研究発表:15:45-17:00

    • ①社会学と「同解釈を導く研究結果が得られる可能性」(寺沢拓敬・関西学院大学):15:45-16:00 [投影資料ダウンロード]

    • 教育研究におけるQRPsの実態と解決策:理科教育分野における事例の紹介(中村 大輝・広島大学大学院):16:00-16:15 [投影資料ダウンロード]

    • ③大規模調査の結果は再現可能か(金丸敏幸・京都大学):16:15-16:30

    • ④構成概念の射程と測定方法から考える再現可能性(徳岡大・高松大学)16:30-16:45 [投影資料ダウンロード]

    • ⑤第二言語観察研究における状況依存性(村上明・バーミンガム大学)16:45-17:00 [投影資料ダウンロード]

  • 閉会:17:00-17:10

草薙・鬼田・亘理(2021)と再び追及姿勢の擁護

 本発表では,外国語教育研究の再現可能性に関する展望論文である「外国語教育研究の再現可能性:素朴な認識の拒絶と追求姿勢の擁護」(草薙・鬼田・亘理,2021)の概要を紹介する。当該論文では,再現可能性の議論が進まない理由として,2つの異なる態度があるとする。1つは「外国語教育研究は再現可能性の点で優れている」とする素朴な認識である。もう1つの態度は再現可能性の追求を否定する態度である。これらのうち,前者の認識を一切拒絶するものの,同時に再現可能性を追求する姿勢を妥当とみなす機能主義的かつプラグマティックな見方を提示している。さらに,(a)外国語教育に関するコミュニケーションとコミュニティ,(b)再現可能性という用語の多義性といった観点を踏まえながら,再び再現可能性を追求する姿勢を擁護する。 (県立広島大学 草薙邦広

教育実践を科学的に再現可能な操作と認識することは、実践と科学の両方を損なう

 本稿は、教育実践を自然科学的な意味で「再現可能」な操作と認識することは、実践と科学の両方の営みを歪めてしまうことを4段階で論証し、外国語教育研究は人文・社会的な論考法を発展させるべきだと主張します。第1に、発表者の実践を簡単に紹介し、実践者の思考法と実験研究者の思考法の類似点と相違点を示します(ショーン)。第2に、教育実践は、以下の点で、再現可能性を追求できるような科学的営みではないことを説明します。(1)複合性:関与する多くの相互作用が複雑すぎるため、単一あるいは少数の要因の有無により現象が再現するとは限らない(複雑性の理論)。(2)意味解釈:実践者のことばの意味には、さまざまな可能性が含まれるため、厳密な意味の同定が期待できない(ルーマン)。(3)実践者が獲得する知識・技能は、その人の人生がかかった人格的なものであり、無人格的な知識・技能として定義・伝達できるものではない(ポラニー)。(4)物語様式:実践者は、複数の人間の異なる認識と行動が同時並行的に共存するポリフォニー構造の中で思考し行為しているので、そもそも単一の視点だけから観察をする科学規範様式では実践の錯綜性が捉えられない(ブルーナー)。第3に、実践を科学化しようとする衝動の背景には、"publish or perish"といった社会的要因だけでなく、ことばを哲学的に誤用することにより、理想やモデルを現実と混同してしまう私たちの知的傾向があることを説明します(ウィトゲンシュタイン)。第4に、以上述べた理由にもかかわらず実践をあくまでも再現可能性を求めるべき操作と認識して行動する者は、現実対応が下手になることを述べます(神田橋)。そのように偏った実践を基に科学を構築しようとすることは「鳥に飛び方を教える」ようなものであり(タレブ)、科学の過剰適用(科学主義)です。以上の理由で、本発表者は、外国語教育研究は再現可能性を求めるべきとは考えません。外国語教育研究は、複合性・意味・人格性・物語といった特徴を前提とした論考の様式を発展させるべきです。(京都大学 柳瀬陽介)

外国語教育研究者のコミュニケーションの方法を再考する

 「外国教育研究の再現可能性」を、主に学校現場で教育実践に取り組む英語教師の視点から検討しようと考えると、単に「研究者同士のコミュニケーション」のためにだけではなく、研究者―実践者(英語教師)間のコミュニケーションを考える必要がある。また、英語教育に関するデータが持つ社会的影響力を考えると、研究者―社会(一般市民・マスメディア)間のコミュニケーションも無視できない。そのような視点で考えると、本発表者は草薙・鬼田・亘理 (2021)の主張に概ね賛成である。その上で、研究者に今以上に求められる努力として、主に以下の3つのことを提案したい。1つめは、専門用語の定義の共有である。これは再現可能性を追求する過程で適切に「規格化・標準化」されていくことを期待したいが、それを待つだけでなく積極的に用語を整理・分類していくことも必要であろう。これは質的研究についても同様である。2つめは、外国語教育研究の結果を考察する上で、存在しうる「ノイズ」について、積極的に語るべきである。教室で起こるすべてのことを数値化することは無理だとしても、可能な限り記述として残していく技術が広く共有されて欲しい。(これも質的研究の知見が役立つはずである)。3つめは、外国語教育研究の成果を伝える場所と方法をより多様性のある姿にしていくことである。その意味では、研究者の業績として多様な形態の発表方法も評価されるべきであるし、学会自体も新たな知見の集め方、見せ方を今後検討していくべきであると考える。(帝京大学 奥住桂)

自由研究発表

  • ①社会学と「同解釈を導く研究結果が得られる可能性」(寺沢拓敬・関西学院大学):15:45-16:00

  • ②教育研究におけるQRPsの実態と解決策:理科教育分野における事例の紹介(中村 大輝・広島大学大学院):16:00-16:15

  • ③大規模調査の結果は再現可能か(金丸敏幸・京都大学):16:15-16:30

  • ④構成概念の射程と測定方法から考える再現可能性(徳岡大・高松大学)16:30-16:45

  • ⑤第二言語観察研究における状況依存性(村上明・バーミンガム大学)16:45-17:00